臆病者で何が悪い!
「別に、他の理由なんてない。将来の夢とか、俺、持ったことねーし。なら公務員試験でも受けるかって。だから、出世したいなんて考えたこともない。でも、なんだよ急に」
「田崎さんが、キャリアの人は、やっぱりそれなりに野心があるはずだって言ってたから……って、いや、別にどうでもいいんだけどねっ」
田崎……ね。
ちらりと沙都の顔を見る。
沙都が分かりやすいくらいに慌てて、誤魔化そうとしていた。
確か、俺が今の課に異動して来たばかりの頃、田崎にも同じことを聞かれたことがある気がする。
『生田は、どうしてキャリア官僚になろうと思ったの?』
採用面接でもないし、そんなことを改めて聞かれたことに違和感を感じたことだけは覚えている。
でも、あの時、なんと答えたか……。
思い出せないが、今、沙都に言ったのと同じようなことを話したのだろう。
「……野心って、野心があるのは田崎だろ」
吐き捨てるように言ってしまった。
「そっか。そうだよね。うん……」
「なに? 他に、何かあんの?」
沙都がまだ何かを言いたそうな顔をしていた。
「あのさ、昨日、生田が言ってたでしょ? その、私のこと好きっていうのが田崎さんにばれてるって……」
「ああ……」
心の底から話し辛そうな表情をして。まあ、無理もないか。
「それは、つまり、私たちが付き合ってるってことも知られてるのかな?」
「それは――」
知られているのは事実だ。それは沙都に伝えた方がいいだろう。
でも、あれだけ職場の人に俺たちの関係を知られるのを嫌がっていた。
特に田崎には知られたくない、かな……。
「……ごめん。バレてるみたいだ」
「やっぱりそうなんだ。そっか……」
その表情は、どういう感情からだろうか。
何かを考えているような、無理に笑おうとしているような。
「ごめんな。多分、俺のせい。職場でもおまえのことになるとムキになったりしてたみたいだから」
「えっ? いや、生田が謝るようなことじゃないし。別に、それならそれで。仕方ない」
「沙都」
「それでも、田崎さんのことは気にせず、今まで通り極力普通にしていよう」
「沙都」
喋り続ける沙都の手のひらに俺の手を重ねた。