臆病者で何が悪い!
「とにかく今はこれを飲んで。そうじゃないと僕は君を帰せないよ。無理にでも内野さんを送っていくことになるけど、それでもいい?」
真剣なまなざしで私を覗き込んで来る田崎さんから目を逸らす。送ってもらうなんて、まっぴらごめんだ。
「……いえ。飲みます。飲みますから」
そのマグカップに両手を添えると、熱が冷え切った手のひらに伝道して行った。そして口に含むと、今度は身体の中からその温かさが染み渡って行く。
「熱あるね? 顔が真っ赤だよ。ホットミルクを飲んだことで胃はある程度保護出来ると思うから。薬飲んで」
「もう、大丈夫ですから。だから、帰って――」
「大丈夫だなんて、そんな顔で言われても信じるわけないでしょ」
俯いていた頬に、ひんやりとした田崎さんの手のひらが当てられた。
「いやっ――」
「こんなに熱い。一人で、帰れないだろ?」
そんな喋り方。いつもより低い声に、身体が強張る。近付いて来たその身体を見上げれば、優しい雰囲気だったはずの目は鋭いものになっていた。
「本当なら生田を呼んであげればいいんだろうね。でも、僕はそんなことしないよ」
「やめてください――」
頭を振ると、余計にくらくらとして、窓に頭をもたれさせた。
「昨日から、君の様子は明らかにおかしい。それに、生田の方を絶対に見ようとしない。僕は、その隙を見逃すほど愚かじゃないんだ」
もう、やめて――。今は、頭も心も擦り減って、熱が私から思考を奪っていく。
「君の心を僕の方に向けることができるなら、どんな卑怯な手だって使う。弱っている君につけいることだってするよ。内野さんは今、辛いんじゃない? 生田と何か、あったんだろう?」
「やめて……。やめてください」
この人の前で泣いたりなんかしたくないのに。絶対嫌なのに。やけどしそうなほどの熱い雫が次から次へと頬を伝う。
「見ないで……くださいっ」
荒くなる呼吸で絞り出した声を閉じ込めるように、私の身体を田崎さんが引き寄せた。
「やめてっ」
力なんてこれっぽっちも入らない腕は、あまりに無力で。どんなにその胸を押しているつもりでも、びくともしなかった。
「どうしたら、あの頃に戻れるのかな。まだ君が、僕を信頼してくれていた頃に……」
その声が泣きそうなものに聞こえて、息が止まる。
「――何か辛いことがあったんなら、僕を利用すればいい。それでも僕は構わないよ」
生田――。
何故だか、あんなにも逃げようとしていた人の名前を心の中で呼んでいた。
「内野さん、僕は本当に――」
「何、してる……?」
田崎さんのものではない、鋭い声が耳を切り裂くように届く。