臆病者で何が悪い!
「内野さん、大丈夫? 体調でも悪いんじゃ――」
「い、いえ。今日はちょっと……では、お先に失礼します」
田崎さんの視線から逃げるように、私は職場を後にした。
空を見上げると、月もほとんど見えない真っ暗なものだった。見つめていると、その闇に吸い込まれそうになる。寒気のする身体で前へと進む。
「ちょっと、待って!」
ぼおっとして、思わず振り向こうとして。振り向いたと同時に腕を強く掴まれて、夜の暗さのせいで顔がよく見えない。その反動で身体がぐらついて、倒れ込みそうになってしまった。
「だ、大丈夫? やっぱりおかしいと思ったんだ。内野さん、体調悪いでしょ」
誰かの胸に身体を預けているらしい。それが誰のものかも分からないけれど、そうしてもらえて助かった。こんなところで倒れたりしたくない。
「ちょっと、ここじゃ寒いから――」
強く私を支えながら、その人が言う。その声に聞き覚えがある。
「ああ、あそこがいい。あの店に入ろう」
久しぶりの人の温もりに。不意に涙が零れそうになって慌てる。ああ、熱があるからだ。
そんなこと、考えている場合じゃなくて、一体誰ーー?
上手く頭が働かないうちに、吹き付ける冷たい風から守るように肩を抱かれて。その人の顔を見上げる。
「田崎さん……?」
朦朧としていながらも、咄嗟に離れようとした。
「内野さん!」
離れた身体はいとも簡単に引き寄せられる。
「だ、大丈夫ですから、放っておいてくださ――」
「こんな道の真ん中で倒れたい? 僕は、君の一同僚として、体調が悪いのを分かっていて放っておく趣味はないよ」
身体中が重苦しい状態で抵抗してみも、何の意味もなさなかった。
「それに、倒れられたら余計に他人に迷惑をかけることになる。君も大人なら、ここは言うことを聞いて」
有無を言わさぬ強い口調と、がっしりと掴まれた肩。そして、加速度的に悪化していく体調から、私は考えることを放棄した。
連れて来られたのは、大通りに面したカフェのようだった。通りを見渡せるガラス窓側に座らされる。ただ座っているのもしんどくて、窓ガラスにこつんと頭を預けるガラスの冷たさが、より身体の熱を感じさせた。
田崎さんは、私の向かい側ではなく何故か隣に腰を下ろして、目の前に温かいミルクを差し出して来た。