臆病者で何が悪い!
それからは、考えることも何かを思うこともやめた。ただ、壮行会のために出来ること。その準備や、そして仕事。すべてから逃げるように没頭した。
それでも、その日はやって来てしまう。
「今日、おまえ先に行っといて。夕方会議で時間通り行けないかもしれない」
桐島にそう言われていた。課内では、生田の最後の出勤日とあって、ひっきりなしに生田の席には誰かが訪れていた。それを横目で見ながら、私は仕事を進める。
「――もう来週からは、あの席に生田はいないんだな」
隣の席に座る田崎さんがぼそっと呟く。それは私に言っているのか、それともひとり言なのか。判断がつかなかった。どちらにしても、仕事に関係のない会話はするつもりはないけれど。
「いなくなると分かると、少し、寂しかったり……? 唯一僕が本性を出せる人間だったから」
「……え?」
その田崎さんの言葉に、思わず田崎さんの方を見てしまった。
「ほら、僕、本当は性格悪いでしょ? それを隠しているのも結構疲れるから」
一体、何が言いたいんだろう。
「本当の自分を曝け出せる相手は貴重だなって話。君も、そう思わない?」
「……いえ」
慌てて顔を背ける。
本当の自分。強がらなくても、女を捨てなくてもいい、ありのままの私を受け入れてくれた、ソンザイーー。
何かを揺さぶられそうで焦る。今さら、何かをかき乱すようなことは考えたくない。