臆病者で何が悪い!


そして、その時一つの重大な事実を思い出した。

――生田も希のことが好きだった。

それなのに、必死過ぎて田崎さんに応援すると言ってしまった。

振り向くことは出来ないけれど、心の中で「生田ごめん」と謝った。



すべてをなかったことにするように、毎日毎日仕事に没頭した。
田崎さんともこれまでと変わりなく接する。

つくづく思う。笑顔って、楽しいからするんじゃない。笑顔にしたいからするんだ。今の私は、笑っていないと、きっと自分を支えられなくなる。

すぐ後ろの席にいる生田とは、極力視線を合わせないようにした。幸い同じ係ではない。特に会話をする必要性もあまりないのだ。

そして希のこと――。当然のことだけれど、希には何も聞くことが出来なかった。希からも何か言って来ることはなかった。

あれから、田崎さんは希に想いを打ち明けたのか。希は田崎さんのことをどう思っているのか……。

生田が希に「あんまり用もないのに来るな」と言って以来、希は私のところに来ることがなくなった。今となっては、それが良かったのか悪かったのか。


心のどこかで希に会うのが怖かった。



< 60 / 412 >

この作品をシェア

pagetop