そうだ、鏡は異世界に通じているらしいよ
孤独


『そうだ、鏡は異世界に通じているらしいよ』


……誰が言った言葉だったろうか。遠い昔の友人?それとも誰かとすれ違った拍子にふと耳に入っただけ?

…いや、そんな事はどうでもいいのだ。

ただ、逃げたかった。死にたかった。この世界から消えてしまいたいと本気で願っていた。

高校では影で悪口を言われ、家では親に怒鳴られ、SNSでも問題を起こし、もはや心の底から信用できる親しい友人も無い。

「……我ながら人生詰んでるな」

自分だけに聞こえるような小さな声で呟いて、私は人混みをかき分けかき分け先に進んだ。


__ここはこの地区唯一の神社。大きく、真っ赤な鳥居が特徴的な場所だ。そして桜の大木が参道の脇に延々と咲き乱れている。私なんかには似つかわしくない、美しい場所。

また両親が怒鳴りあいを始めたため、聞きたくなかった私はこの神社に逃げてきたのだ。そして人は居ないだろうと思っていたのだが違った。

祭り囃子。人々の喧騒。子供たちのはしゃぐ声。からんころんと鳴る、下駄の音。

「……祭り?」

夏でもないのに。豊穣祭か何かなのだろうか。
……まぁ、いい。とにかく静かな場所へ行きたい。

良い匂いのする露店の横を素通りし、私は境内の更に奥のほうへと足を進めた。
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