キミが可愛いわけがない
もう1回
(side 柚希)


腕が痛い。


久しぶりに声を聞いたのに。

久しぶりに触れられたのに。

目の前の彼は怒っている。


昔は泣いてばかりで、今は怒ってばっかなんて…。めんどくさい人だ。


「ねぇ、芽郁ってば!」


毎日呼んで叫んでいたはずの名前を、何週間ぶりかに声に出すと、体の真ん中がトクンと跳ねた。


芽郁のことを考えると時々こうなる。


芽郁と話さなかった間、芽郁にキスされたあの日から、私たちが今まで引いていた線がなんだかプチっと切れた感覚。


なんで芽郁がこんなところにいるんだろう。


あぁ、だって好きな子がミスに選ばれていたもんね。そりゃ見にくるか、なんて。


好きな人の晴れ舞台なんだから、こんなことしてないで早く会いに行けばいいのに。



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