蜜月なカノジョ(番外編追加)
あなたが好きです
あの日のことは自分でも説明できないくらい不思議な出来事だった。
仕事帰りに偶然通りかかったビルの前で酷く顔色の悪い男性を見かけた。
膝をついていてもはっきり長身だとわかるその人は、蹲って口を押さえたまま全く動く気配がなかった。
大丈夫なのだろうかと心配になる一方で、もしこれがきっかけで嫌な目に遭ったら…そう考えたら足が竦んで近寄ることなんてできなかった。
人通りの多い場所だしきっと誰かが声をかけてくれる。
そう心の中で祈りながら、私はその人の前を通り過ぎて行った。
…けれどしばらくしてどうしても気になって後ろを振り返ってみると、あれだけ人がいるにもかかわらず誰一人として声をかけてはいなかった。きっと皆が皆私と同じような考えでいたのだろう。
相手は男性。いくら人助けとはいえ、私にとってはかなりのハードルの高さで、いつもなら後ろ髪を引かれながらも心の中で謝りながら走り去ってたと思う。
それなのに何故かその日はどうしてもその人を置いて立ち去ることができなくて。自分でもどうしてそんなに気になったのかなんてわからない。
けれどとにかく放っておけない、その一心で埋め尽くされてしまったのだ。