蜜月なカノジョ(番外編追加)

「…? あの、ナオさ…」
「ほら、ナオ! とにかく今は私に任せてあんたは仕事に行ってきなさい! こうして杏ちゃんがきちんと仕事に来てるのに、あんたが仕事そっちのけにするようじゃあ冗談抜きで杏ちゃんに見捨てられるわよ!」
「う゛っ…うるさいわね、あんたはいちいち!」
「うるさいと思うならさっさと行きなさい! ほら、早くっ!!」
「ちょっ…そんな押さないでってばっ!! あ、杏っ、私、あなたに…!」

グイグイ押されながらもナオさんが必死に私を振り返る。
けれど葵さんは容赦ない。
そのあまりにも必死な様子に、唖然としながらも何故だかおかしさがふつふつと込み上げてきて、気が付けばプッと吹き出してしまっていた。

「え……杏…?」

「…ナオさん。私どこにも行きませんから。…いつも通りご飯を作ってあの家で待ってますから。…だから、」
「…っ」

そこまで言いかけたところでナオさんの目にみるみる涙が溜まっていく。指でつつけば今すぐにでも零れ落ちていきそうな状態で踏みとどまっていて、ナオさんはハッとしたように手でそれを拭うと、目と鼻を真っ赤にしながら嬉しそうに、…それはそれは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「…ありがとう。杏…本当にありがとう。…大好きよっ!」
「きゃっ?!」
「へへ、じゃあ行ってくるわね!」

チュッといつものように頬にキスを落とすと、どこか照れくさそうに鼻を啜りながらナオさんは部屋を出て行った。
背中を向けたその姿はもういつものスーパーウーマンだった。

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