百花繚乱 社内ラブカルテット
紀子ちゃんの話を聞いた後だし、ついいつもより想像が先走る。
頭の中で妄想を繰り広げながら、私の視線は無意識に景の左手の薬指に向いた。
景は私の視線には気づく様子もなく、豪快にご飯を掻き込んでから、「で?」と短い言葉で何かを促してくる。


「真っ昼間の食堂で雰囲気出して、何を物思いに耽ってたの?」


口をモゴモゴさせながらそう聞いてくる景に、私は思わずヒョイッと肩を竦めた。


「物思いって。そんなことないんだけど」

「あるある。少なくとも、心ここに在らずみたいな雰囲気、醸し出してた」


そう言われて、私もつい苦笑した。
「ああ、うん」と言葉を濁しながら、私は小さな溜め息をつき、箸を動かしてうどんを摘まみ上げる。


「実はね。後輩が年末で退職するって発表されて」

「冬ボ出た後だし、そのタイミング多いよな」

「うん。まあ、そうなんだけどね」


景の返事に相槌を打ちながら、私はズズッとうどんを啜った。


「彼女が教えてくれたんだけど。退職理由が、私には結構衝撃で」


ちょっと笑顔がぎこちなくなるのを自覚する。


「え?」


景はいつの間にか空になった茶碗を置いて、代わりに水の入ったグラスを手に取った。
< 13 / 33 >

この作品をシェア

pagetop