百花繚乱 社内ラブカルテット
景が完全に箸を止め、くりっとした目を更に大きく見開いていたから、軽く腰を浮かせた状態で首を傾げてみせる。


「どうかした?」

「あ、いや。……うん」


景は口元に手を当て、声をくぐもらせる。
つーっと視線を横に流す彼に、私は何度か瞬きをした。


それでも景がその続きを口にする気配が感じられなかったから、私はしっかりと立ち上がり、半分ほどうどんを残したまま、両手でトレーを持ち上げた。


「じゃ、お先に。……あ」


景の横を通り下膳台に向かおうとして、ふっと思い出す。
私は彼の横で足を止めて、少しだけ背を屈め、内緒話をするように声を潜めた。


「景、今日の夕食の約束、予定通りで大丈夫そう?」

「っ、えっ!?」


週末のデートの時、景と今晩の約束をしていた。
でも、景は忙しい銀行営業マン。
午後七時までに上がれないようなら、ただの食事デートもキャンセルになる。


後で行内メールで確認しようと思っていて、ちょうどいい!とばかりに訊ねてみたけど、どうやら不意打ち過ぎたようだ。
景の驚きように私の方が戸惑ってしまい、反射的にビシッと真っすぐ背筋を伸ばした。


「あ、ああ。ごめん。夕食ね、夕食。うん、大丈夫……」
< 15 / 33 >

この作品をシェア

pagetop