百花繚乱 社内ラブカルテット
レジェンドと探偵ごっこ
記憶を遡って行き着いた先。
すべての起点は昨日の朝。
週明け恒例の、外国為替課全員の朝礼の時のこと。


「結婚するので十二月末で辞めます」


紀子ちゃんの急な発表に、課内のみんながザワッとした。
隣に立っていた同期のみちるが、私のブラウスの肘の辺りをチョイチョイと引っ張って、『そうだったの?』と小声で聞いてきたけれど、私、指導担当なのに初耳だった。
だから驚くよりも先に呆然としてしまい、紀子ちゃんの発表が終わってパラパラと湧き起こった拍手には、ツーテンポも遅れてしまった。


朝礼が終わって散会する中、デスクに戻っていく紀子ちゃんを、みんながどこか遠巻きにしていた。
と言うのも、彼女に彼がいるという話を、その場にいた誰も聞いたことがなかったからだ。
退職の報告で相手に一言も触れないのは不思議なことではないけれど、みんな手を叩いて祝福してあげられる心境ではなかったようだ。


みちるが席に戻る前に、私にコソッと耳打ちした。


「もしかしたら『寿』は嘘かもよ」


それを聞いてギクッとする私の肩を、彼女はポンと叩いた。


「帆南は指導頑張ってたし、たった半年で辞めるなんて、『一身上の都合』って言い辛かったんじゃないかな。でも明らかに銀行向きな子じゃなかったから、本人なりに悩んだ上での結論だろうしね」
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