百花繚乱 社内ラブカルテット
そう言い残し、私を通り越していくみちるの背中を見送って、私もゴクッと喉を鳴らした。
私が悩みながら指導していたことを周りは評価してくれてても、指導を受ける側の紀子ちゃんには窮屈だったのかもしれない。
私はOJTを無事に終えることができたと思っていたけど、紀子ちゃんの方はとうに限界を超えていたのかな。


七年も働いていながら、役割を果たすことだけで目一杯になってしまったことを、私は初めて自覚した。
もしそうなら、至らない先輩で申し訳なかった……。


私は深く反省して、先に席に戻って開店準備を進めていた紀子ちゃんに謝罪をしようと、思い切って声をかけた。
けれど、それに対して返ってきた返事は……。


「やだな。全然帆南さんは関係ないですよ。でもまあ……確かに、まだしっかり寿退社ってわけじゃないので、相手が誰かなんて言えないんですけど」


私の謝罪に、紀子ちゃんはあっけらかんとした様子で肩を竦めた。
それはそれでまたびっくり仰天なことを耳にして、何度も瞬きを返す私に、彼女はニッコリと微笑んだ。


「帆南さんだから言います。……プレッシャーのつもりなんです。いつまでも煮え切らない彼への」


私が半年手塩にかけて育てた新人は、見たこともない策士の笑みを浮かべて、強気にそう言い放ったのだ。
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