美称・臥龍 喬子の生き様
暫くすると、
男性が、動き出した。


どうやら、買いたい本が決まった様で、
何冊かを手に、レジの方へと
本棚から本を選んでいる 喬子の後ろを通り掛かる。

すると、
男性が、思わず本を落とした。


喬子は、不意の事に驚きながらも 振り向き、
咄嗟に 拾ってあげようとした。


当然に 男性本人は慌てて、

そして、同時に拾う態勢となり、

思わず 手と手が、触れた。



「あっ…」

「あっ!すみません!」



触れ合った瞬間に どきっとしてしまい
言葉を失ってしまった喬子に、
男性は、非常に恐縮そうに頭を下げる。

その対応に我に返り、
喬子は、言葉を返した。


「いいえ、そんな。。
大丈夫ですか?」

「あ…、はい」


恐縮ながらも はにかんだ様に見えて、
喬子は、思わずクスリとなった。


“クールに見えたけど、意外にそそっかしいのかしら…
かわいらしい人…”



そんなことを思われているとは知らず、
男性は、

“……綺麗な人だな…、、
思わず見蕩れて…落としてしまった……”

と、焦る心を落ち着かせようとしていたのだった。




落ち着かない感じで本を拾う男性を見ながら、
喬子は、ふと、
男性が手に持つ一冊に、目が留まった。



「あ、その本…、私も好きです」


「え?、あっ、この本ですか?」


「はい。『雲の上』」


「あ…、読まれたんですか?」


「えぇ。 何年も前の本ですけど、この間読んだばかりで、興奮冷めやらぬって感じだったので、思わず…。
この本、ノミネート作品でしたけど、」


「あ!待ってっ」


「え?」


「まだ読んでないので、ネタバレは…」


「ぁあ!
そんな話じゃ。大丈夫ですっ、言いませんよ」


「あぁ…、、良かった。。」




ふたりは、思わず笑い合った。




見ず知らずで喋ったばかりなのに、
ふたりの間には、和んだ空気が流れた。




喬子は、
“今日 初対面で、
この前 私が読んだばかりの…同じ本を…今日、この人が……”
と、
新作で今話題の…というわけでない本での
この偶然に 感動にも似た素敵な気持ちを味わっていた。





「こっちは、読まれましたか?」

男性が、自分が手にするもう一冊を 喬子に見せて言った。


「あぁ…、いえ、その本は、読んでないです。

『白昼の死角』…
推理小説…ですか?」


「そうですっ。
タイトルで、すぐにジャンルがわかるんですかっ
相当、本を読んで来られた?」

「えぇ、昔から本好きなので」


「僕もです。

『白昼の死角』
ミステリーの魔術師と言われた、
高木彬光の本です」



「面白そうですね」



「はい。 あの、じゃあ……

今度、貸しますよ」


「え?」


「私が読んでから…で宜しいなら…、お待ちいただけるなら…、、」



「はい。お願いしますっ」


またまた恐縮そうに言う男性に、
喬子は、満面の笑顔で応えた。






そして、

ふたりは、本を買い終えると、

なんとなく 一緒に古本屋を出て、

意気投合したふたりは、共に本好きも高じて

話に花が咲き、

男性は、思い切って 喬子をカフェに誘った。


< 18 / 35 >

この作品をシェア

pagetop