Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


「いや、ぶっちゃけ少し前までは宮地どころじゃなかった。合コンとかで意気投合したら持ち帰るけど、別に付き合わない、みたいな」

宮地と私の「うわー」って声が重なったのを聞いた松田さんは、慌てたように「昔だから。あくまでも昔の話な」と付け加え……それからふっと笑う。

「まぁ、今の俺の一途さ見たら弁解する必要もないけど」

わざとらしい笑みに、ふたりして何も言えなくなったのは、本当にその通りだからだ。
松田さんの彼女への一途さは支店では有名な話で疑いようもない。

それまでは毎回出席していた営業の飲み会を彼女との約束を理由に断ったり、彼女が風邪を引いたからって、必死に仕事を終わらせて定時上がりで看病に向かったり。

そんな一途な愛情を向けられる彼女は少しうっとうしがってるって話だけど。

松田さんいわく、〝俺の彼女ツンデレっていうか恥ずかしがり屋さんだから〟で、冷たい態度は決してうっとうしがっているわけじゃなく、照れ隠しだって話だけど……実際は怪しい。

「遊んでた男ほど、一度嵌まると深いんだよなー。意識しなかったのにいつの間にかひとりに絞られてて、それに気付いた途端、こう、今まで持て余してた愛情を注ぎたくなるっていうか」

ぐっと胸のあたりで拳を握る松田さんに、「それでうっとうしがられるわけですね」と宮地が言うから思わず笑っていると。

余裕の笑みを浮かべた松田さんが宮地の肩にポンと手をつく。

「まぁ、そんな態度とってられるのも今のうちだ。そのうち宮地にもわかる。……あ。こんなとこで無駄話してる場合じゃなかった。今日デートだった」

そう言ってすぐさま階段を駆け上がっていった松田さんの背中を見て、宮地が「俺が彼女でもうっとうしがるな」と呟く。


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