俺様御曹司とナイショの社内恋愛
「ごめんね、俺、迂遠な言い方が苦手で」

こんな上から目線な謝り方もあるんだ、ってそんなことに感心してる場合じゃないか。

そろそろ行きますか、と白石が伝票ホルダーを手に立ち上がる。
慌てて続く。

「あの、おいくら・・・」

声をかける郁をかるく手を振って制し、白石はレジカウンターで伝票になにごとかサインをすると、なんとそのまま店の外に出た。

「し、白石マネージャー、お会計は!?」

「ん? 俺、このホテルの会員だから。会計は後で回してもらってる」

「・・・・・」
もう何も言葉が出てこない。

前をゆく彼の背を、追うように歩く。
すらりとした長身に、長い足、郁の手でも掴めそうなほど小ぶりな頭部が首の上にちょんと載っている。なんとも均整のとれたプロポーションだ。

対して自分はといえば———ちらりとショーウィンドウに映る姿を見てしまう。

身長157センチ。きっかり日本人女性の平均だ。
容姿はそんなに悪くないとは思うけど、べつに人目をひくほどのものじゃないし。
セミロングといえば聞こえはいいけど、手入れが楽だからと伸ばしっぱなしの髪。そろそろ美容院行かないとなぁ・・・

プレーンな形のスカートとシャツとパンプス。
ごくごく普通の27歳のOL。それ以上でも以下でもない。

見目ひとつとっても、白石諒に釣り合う女性は、他にいるだろうに。

どうして彼はわたしを———
小宮山さんと仲がいいっていっても、べつにコミュニケーション能力が高いわけじゃないのに。

白石とのやりとりが、頭の中でぐるぐる回る。
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