それはちょっと
――僕の彼女になりなさい

彼はそう言って、私の唇に自分の唇を重ねてきたのだ。

思い出すな思い出すな思い出すな…。

とにかく気を落ち着かせて彼から目をそらそうとしたら、
「南くん、おはよう」

私の視線に気づいたと言うように、部長が声をかけてきた。

しまった、見過ぎた!

上司に声をかけられてしまった以上、無視をする訳にはいかない。

いつも通りを演じるんだ。

「――おはようございます」

いつものように素っ気なく、部長にあいさつをするとプイッと彼から目をそらした。

その足で自分のデスクに向かうと腰を下ろした。

まさか、声をかけられるとは思ってもみなかった…。

チラリと部長のデスクに視線を向けると、彼は仕事に戻っていた。
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