偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
最終章 仮面夫婦からの卒業
鉛でものみこんだみたいに、全身が重い。目の前はまっくらだけど、目を開けているのか、閉じているのかもわからない。

私は生きてるのかな。光一さんは死んでしまったのだろうか。

くだらない意地をはらないで、最初からきちんと話をしていればよかった。
何度も電話をくれていたのに、どうして出なかったんだろう。
課長の無駄話なんて無視して、明るいうちに本社に向かっておけばよかった。
近道なんてしなくていいから、大通りを歩いていれば。

絶望的な気分で、タラレバばかりが浮かんでくる。

(光一さん。私のせいで……私をかばったりしたから……)

「死なないで~!光一さん」
私は叫びながら、ぱちりと目を開けた。すると、見覚えのある天井がぐるりと180度回転した。ガンと後頭部に強い衝撃。
「うっ。痛い……」
どうやらベッドからずり落ちて、床に頭を打ちつけたみたい。
「……死んでないから。朝っぱらから大声出すな」
「へ?」
私はきょろきょろと、あたりを見渡す。光一さんの部屋のブルーのカーテンの隙間から、柔らかな朝日がさしこんでいた。
頬から血を流していたはずの光一さんは、元の綺麗な顔のままじっと私を見つめている。
「え?夢だったの?なんて、リアルで不吉な……」
そもそもどこからが夢だろう。ストーカー事件?愛人疑惑は?そもそも、光一さんとの結婚自体が夢だったとか?

「残念ながら、夢じゃない。肝心な、いろいろと面倒なところで、お前
が寝てただけだ」
体を起こして、よく見てみれば、光一さんの右手から二の腕にかけてはぐるぐると真新しい包帯がまかれていた。
私の視線に気づいた光一さんが説明してくれる。
「手の甲から腕にかけて、すっぱり切られたよ。不幸中の幸いで、後遺症とかの心配はいらないみたいだけど」
「か、顔じゃなかったの?」
「顔のがマシだったかもな。利き手だぞ、不便で仕方ない」
頭や顔を怪我したわけではなく、手の傷から流れた血が頬をつたっていただけだったらしい。
「で、でも……生きてた。よ、よかった~」
「死ぬような出血量じゃなかっただろ」
光一さんはふっと目を細めて、笑った。
「死ぬレベルの出血量なんて知らないもん!本気で死んじゃうかと思って……」





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