偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
光一さんにしてみれば、私の存在は妻ではなくただの同居人だ。
やましいことがあるわけではなくとも、自分の行動をいちいち説明する義務はないと思っているのだろう。

やましいこと……意識的に考えないようにしてたけど、やっぱりそういうことなんだろうか。
光一さんはモテる。既婚だろうが、それは間違いないはずだ。相手に困るようなことは絶対にない。
では、光一さん自身はどうなのだろう。ホワイト光一さんは誠実そうに見えたけど、本当の彼は?
考えてみても、よくわからなかった。
私はあまりにも彼を知らない。


結局、私はなにも聞けず、光一さんもなにも言わず、ふたりで朝のニュース番組をぼんやり眺めながら朝食を終えた。


「じゃあ、私はそろそろ行くね」
本当はまだ少し余裕があったけど、逃げるように家を出て会社に向かう。

「はぁ……」
今日何度めかの大きなため息。
それでなくとも若くも美人でもない受付嬢なのだから、愛想くらいは良くしなくては。
そう思うものの、今日ばかりはテンションがあがらない。
「大丈夫ですか〜?華さん、今日疲れてますよ!目の下、クマできてますし。あっ、もしかして、おめでた……とか?」
美香ちゃんがプルプル、ツヤツヤのお肌で若さが弾ける笑顔を向けてくる。
あまりの眩しさに直視できない。

「おめでた……ないない、ありえないよ」
そんな日がくるなんて想像すらできなくて、私は思わず後輩相手に本音を漏らす。
「え〜新婚なのにうまくいってないんですか?
いらないなら、鈴ノ木さん私にくださいよ〜。
鈴ノ木さんならバツイチでも全然オッケー」
美香ちゃんは笑いながら、胸元でかわいらしくピースサインを作る。





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