偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「光一さん?大丈夫?」
視線がぶつかる。
長めの前髪の隙間からのぞく彼の瞳がやけに熱っぽくて、私の心臓はどきりと大きくはねた。
「一晩一緒にいたら、俺なんかおかしなことするかも……今日っていうか、最近ちょっと
情緒不安定だから」
「情緒不安定って……なんかあったの? 仕事?」
私の発言に光一さんがふっと笑みを漏らした。
「アホ。俺が仕事ごときで情緒不安定になるはずないじゃん。__お前のせいだろ。ただの
同居人……のはずの女に振り回されて、なにやってんだかなー」
言葉はずいぶんと辛辣だけど、光一さんはどこか楽しそうに笑った。

「よしっ」と小さくつぶやきながら、光一さんは立ち上がった。そして、座り込んだ
ままの私を見下ろして言う。
「いいよ。今夜は俺の部屋にこいよ」
「えっ……いや~なんか冷静になったら恥ずかしくなってきたし、やっぱりひとりでも大丈夫です」
「自分から誘ったくせに? 大体、恥ずかしいって、なにをいまさら」
光一さんはすっかり自分のペースを取り戻したらしく、意地悪な笑みを浮かべている。

『なにをいまさら』
たしかにその通りだ。付き合ってたころ、泊りのデートは何度か経験済み。
だけど……あのころの光一さんと今の彼があまりにも別人すぎて、とても同じには考えられない。

あの時の光一さん、ずべて私の妄想なんじゃないかと思ってしまうほどに素敵だった。
けど、あの時の彼より、いま目の前にいるこの人のほうが何倍も私の心をかき乱す。






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