偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「だめ。もう決めたから」
彼はそう言うと、私の手をひき立ち上がらせた。
次の瞬間、私の体はふわりと宙に浮いていた。肥満ではないけれど決してスリムではない私を、光一さんが軽々と抱き上げたのだ。そして、その状態のまま寝室に向かってスタスタと歩き出す。

「お、重くない?」
「まぁ、それなりかな」
「そこはお世辞でも否定してよっ」
「いいんだよ。ガリガリの女は苦手だし、
このくらいがちょうどいい」
にやりと笑った彼の端正な顔がゆっくりと近づいてくる。形のよい薄い唇が私の耳を軽くはんだ。
「ぎゃっ」
動揺しすぎて、体に変な力が入ってしまった。腕の中から落ちそうになる私を、光一さんがあわてて抱き直した。
「あぶねーな。いいから、大人しくしてろ」
「なら、変なことしないでよ……」
私は小さな声で抗議したが、彼には効き目がなかった。いや、むしろ逆効果だったようだ。
「こっちばっかり振り回されるのは癪だしなぁ。今夜は華に乱れてもらおうかな」
「み、みだれって!」
おかしな声が出た。ついでに顔も、相当おかしかったのだろうか。
光一さんはぶはっとふきだすように笑った。
「色気ねぇなぁ」
「だ、だって。光一さんがおかしな、おかしなこと言うからっ」
そもそも、私に色気を求められても困ってしまう。典型的な日本人体型で胸もおしりもぺたんこだ。かといって、恋愛経験も乏しいから内面から色っぽくというのも無理だった。




< 70 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop