偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
そんな私の心の声を読んだのか、光一さんは苦笑しながら続けた。
「まぁ、そっち方面は育てる楽しみがあるってことでよしとするか」

……いくら万能な光一さんでも、そればかりは難しい気がする。どんなに優秀な先生でも、生徒の才能の無さまではカバーしきれないだろう。

私は涼しい顔をしている彼を見上げながら、唇をとがらせた。

そもそもの問題として、育てるつもりなんてあるんだろうか。ただの同居人なのに?
それとも、同居人よりは少しだけランクがあがった?

今夜一緒に過ごすというのは、つまりそういうことなんだろうか。
ということは、少しは私を好きになってくれたと思っていいの?
いやいや、男の人は気持ちがなくても……ってよく聞くし、期待しすぎてもまた落ち込むだけだ。

光一さんの整いすぎた顔をいくら眺めてみても、彼の本心はまったく見えてこない。

そんなことを考えている間に、光一さんが私室の扉を開け、私をベッドに横たえた。
彼がベッドボードのボタンを操作すると、真っ暗だった室内がかすかに明るくなる。

「そんな百面相して、なに考えてんの?」
オレンジ色の照明を背にした光一さんが私の顔をのぞきこむ。
きしりとベッドが軋む音がやけに大きく聞こえた。
「な、なにもっ」
私は体を反転させて、枕に顔をうずめた。
頭の中で警告音が鳴っている気がする。

いま顔を見たら、目を合わせたら……私はきっとおちてしまう。
ずっと憧れていたホワイト光一さんではなくて、冷たくて意地悪で、なにを考えているのかまったくわからないこの人に。

「華。こっち見て」

















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