偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
今だって、私が隣にいることなんてまったく気にもせず、すやすや眠っているし。
女としての魅力がないのかな。なんて、ベタな邪推をしてしまうのは光一さんの
せいでもあると思う。

だって……私のほうは布団の中で、ほんの少し指先が触れるだけでドキドキしてしまって、
まったく眠れる気がしないのに。

私はじっと彼の寝顔を見つめた。どうせ眠れないのなら、この寝顔をたっぷり目に焼き付けて
おこうと思った。なにせ、次の機会が訪れるかどうかもわからないのだから。

「……寝れないのか?」
人より色素の薄い焦げ茶色の瞳が、私を見つめ返す。少しかすれた低い声で光一さんが
ささやいた。
「わっ。いつ起きたの?」
「いくら俺が紳士でも、女と同じベッドにいてぐーぐー眠れるほどには人間できてないよ」
「え~?でも寝息たててたし」
「寝たふり。俺が起きてたら、お前が寝づらいかと思ったんだよ」
「そうだったんだ」
「で、さっきのため息はなんだ?」

しまった、聞こえてたのか。いくらなんでも、「手を出されないのが寂しい」なんて、正直に言うのは恥ずかしすぎる。








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