偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
うまい言い訳はないだろうか。私が必死に考えていると、光一さんがずばりと言った。
「女として意識されてないとかって、落ち込んでた?」
「えっ。いや、そんなことは~」
図星すぎて、とっさに繕うこともできなかった。察しの良すぎる男の人ってのも、問題だ。

光一さんはふぅと小さくため息をもらす。おもむろに手を伸ばすと、私の頭をくしゃりとなでた。
「さっきの、痴漢にあった後だからっていうのは、まぁ建前。ほんとは俺の気持ちの問題」
光一さんの気持ちの問題+手を出さなかった=光一さんは私に女としての魅力を感じない。
難しいことは察せない、私の単純な頭は彼の言葉をそう理解した。
「そ、そりゃあそうだよね! 私、地味だし胸ないし」

光一さんは不機嫌そうなむすっとした顔で私の頬をつねった。
「そうじゃなくて! 自分のなかで華に対する感情が変わってきてるから。中途半端な
気持ちで向き合うのは、なんか違うなって。俺なりの誠意のつもりなんだけど」
……結婚してから知ったこと。光一さんは照れると不機嫌な顔になる。
それから、意外と生真面目なところがあるみたい。
私は思わずふっとふきだしてしまった。

光一さんの気持ち、全部わかったわけではないけど、私たちの関係は少なくとも悪い方向
には向かっていないと思う。少しずつだけど、きっとお互いの気持ちは近づいている。

それをもう少し実感できる言葉が欲しいと思ってしまうのは、贅沢だろうか。

「……私、光一さんみたく賢くないから、できればもう少しわかりやすく!」


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