恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「景臣先輩は、はじめから俺達に会う気がなかったんじゃね?」
声の主である後部座席の業吉先輩を振り返ると、私と同じく窓に張り付いていた。
隣の紫ちゃんも窓から視線を業吉先輩に移し、「どういう意味ですか?」と聞き返す。
「あの人優しいからさ、最後まで面倒見るって言ったのに転校する事になって……顔を合わせる資格なんてないって考えてそうだろ」
確かに、業吉先輩の言う通りだ。
本当に景臣先輩は、自分に厳しすぎるとつくづく思う。
私達は景臣先輩の決めた事なら、なんだって応援するのに、何でもひとりで悩んで決めてしまうから、それが寂しい。
「そんな……景臣先輩は弟さんの事でたくさん悩んだはずです。なのに、最後まで私達の事を気遣ってくれて……」
眉尻を下げで泣きそうな声でそう言った紫ちゃんを業吉先輩は振り返り、自嘲的な笑みを浮かべた。
「本当……景臣先輩の悩みに気づけない俺らって、バカだよな」
「早く景臣先輩を見つけないと、手遅れになっちゃいます」
紫ちゃんの言う手遅れとは、たぶん景臣先輩が自分を責めたまま転校してしまう事だ。
ずっと罪悪感に苦しんで生きていくなんて……私、景臣先輩にそんな辛い人生を歩んでほしくない!
そう思った時、見えてきた駅の改札の奥。濡れ羽色の黒髪をした男子の姿を視界の端に捉える。