恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「行ってらっしゃい、清奈ちゃん」
「うまくやれよ、清奈」
紫ちゃんと業吉先輩の姿があの日、あの人を追いかけるために必死に私を助けてくれた、高校生だったふたりの姿に重なって見えた気がした。
「──っ、行ってきます!」
私達はどこにいても、ずっと仲間だ。
もちろんここにいない小町先生も、それぞれが別々の道を歩見始めたのだとしても、それだけは変わらない。
今度、卒業してもこうして私達が一緒にいるところを小町先生にも見せに行こう。
そんな事を考えながら、辿り着く古典研究部の部室前。
「すぅー、はぁー」
扉の前に立ち、早鐘を打つ心臓を落ち着けるために深呼吸をする。
今の私は高校生の私とは違う。他の誰でもない、君に会いに来た。
私は取っ手に手をかけて、ゆっくりと横にスライドさせる。
カラカラと音を立てて開いた扉の先、真っ白い日差しが視界いっぱいに広がって、私は思わず目を細める。
そして目が眩い光に照らされる部室内に慣れてくると、開いた窓から見える浅葱色の空を背に立っている誰かが私を振り返る。
その濡れ羽色の髪がサラサラと風になびいて、ほのかな微笑を称える彼は夜空に浮かぶ淡い月のよう。
「清奈」
──名前を呼ばれた。
たったそれだけなのに、目が熱くなる。涙が次から次へと頬を伝って流れていく。
私は息を詰まらせて、一言も何も言えずに彼の顔をじっと見つめる事しかできないでいた。
「会いたかった」
彼が紡ぐ言葉が離れていた寂しさを埋めるように、じんわりと心を満たしていく。
「私も……ずっと会いたかった──景臣先輩っ」
名前を呼べば、景臣先輩は目を見張ってすぐに泣きそうな顔で笑う。
そして私のそばにやってくると、強く私を抱き寄せた。
「少し背が高くなったか?」
「あれから2年ですもん、成長しますよ私だって」
「ははっ、違いない」
「景臣先輩は……かっこいいです、相変わらず」
向けられる眼差しの柔らかさや優しい笑顔はあの頃から何も変わらないというのに、記憶の中にいる2年前の君よりずっと大人で、私の心臓はさっきから落ち着かない。