恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「っう……」


なんか、人酔いしたかも……。

口元を片手で覆うと、周りに視線を巡らせる。こんなラッシュ時に座席なんて空いているはずもなく、私は諦めて電車の揺れに倒れないように足を踏ん張った。

"早く着け"と呪文のように心の中で唱えること数分、いよいよ立っているのが辛くなった私は、よろけてしまう。

──倒れる!

最悪の事態を想像して、硬く目を閉じた時だった。


「大丈夫?」


そんな声が耳に届いて、私の体は誰かに引き寄せられる。

あれ、この声どこかで聞いたことあるような……。

その声にふと懐かしさを覚えた私はゆっくりと顔を上げて、助けてくれた人の姿を確認した。


「え……」


その姿を目に捉えた瞬間、心臓がドキンッと跳ねた。

どうして、ここに?

まさか、同じ電車で通学していたなんて知らなかった。
教えてくれたら毎日一緒に帰ったのに、つれない人だ。


「顔色やっぱり悪いな、俺にもたれかかったらいいよ」


そう、私を支えてくれているのは、まさかの雅臣先輩だ。こんなところで会うなんて思ってもみなかったから、驚いた。

雅臣先輩の家がどこにあるのかは知らないけれど、中学も同じだったんだし、近所に住んでてもおかしくない。

でも、こうして電車で遭遇するのは、今日が初めてだった。

< 70 / 226 >

この作品をシェア

pagetop