恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「あ、ありがとうございます。こんなところで会えるなんて、偶然ですね」


朝から雅臣先輩に会えるなんて、嬉しいな。

なんだか心地のいい陽だまりを見つけたみたいで、ほっとする。

私がお礼を言うと、雅臣先輩は一瞬不思議そうな顔をした。視線を宙に泳がせて、悩む素振りを見せる。


「ん……? 偶然というか、まぁそうだな」


どこか煮えきらない言い方は腑に落ちないが、私は気のせいだと話を続ける。


「いつも、この時間に乗ってました?」

「いや、いつもは自転車なんだ。ほら、午後から雨が降るって天気予報で言ってたから」


あぁ、だから電車……って。

雅臣先輩は私と同じ駅か、その前から乗っていたはず。

そこから自転車で高校まで通うって、いくらなんでも無理じゃないだろうか。

なんたって、3駅分あるのだ。普段、朝の何時に家出てるのって話になる。

そこまでして、自転車で来る意味ってなんなのだろう。ますます、雅臣先輩って、わけがわからない。


「学校まで3駅も乗るのに、朝から体力有り余ってるんですね」

「え、3駅? 俺は次の駅で降りるよ」

「……はい?」


どうしてだろう。隣で降りて、そこからどうやって学校に行くつもり?

不思議に思っていると、『次は~○○駅~』とアナウスが入る。


「ごめんな、俺ここで降りるけど……」

「え、雅臣先輩!?」

「え、なん──」


何かを言いかけた雅臣先輩は駅に到着した途端、降りようとする大勢の乗客によって押し流されてしまう。

< 71 / 226 >

この作品をシェア

pagetop