好きの海に溺れそう
「離して…」

「なんで? 俺の何がだめなんだよ…」

「夏樹がだめなんじゃない…。好きな人が…できた…」



あたしがそう言ったら、夏樹はゆっくり体を離した。



ベンチに座って頭を抱える。



「杏光が…もう俺のこと好きじゃないのは…実は知ってた…」

「…」

「だけどどうしても…離したくなくて…。苦しかったけど、離せなかった…」



夏樹はあたしを見て、あたしの頬に触れた。



「別れよ…」



また苦しそうに、そう言いながら笑った夏樹はそのまま立って公園を出た。



夏樹は…あたしのことが、ちゃんと好きだったんだ…。



それなのにあたしは、そんな夏樹に向き合おうとしないで…。



ごめん夏樹…。



だけどあたしは、泣いたりしない。



次に進みたいから。



絶対に泣かない。
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