好きの海に溺れそう
「海琉…」

「杏光見てたよ」

「あたしも見てたよ…。楽しそうだったね」

「楽しかったけど…杏光どうしたの?」



暗いあたしを海琉が心配そうにのぞき込む。



「るみちゃんと踊れて…楽しかった?」



なに言ってるんだろう、あたし…。



こんなこと言いたくないし、本気でそう思ってるわけじゃないのに。



口から次々と言葉が出てくる。



「杏光…なに言ってんの?」

「るみちゃんとあたしじゃ、るみちゃんの方が確実に性格いいしね」



今のあたし、すっごく嫌な感じだ…。



そう思ったら、ふいに海琉が大きな声を出した。



「なんでそういうこと言うの!?」



怒ってる…。



めったに怒らない海琉が、あたしのことで怒ってる…。



『ごめん』と開きかけた口。



なのに…。



「『なんでそういうこと言うの』って、海琉が楽しそうにするからでしょ!?」



なぜか全然別の言葉になってしまった。



あたし…超…性格悪い…。



これ以上ここにいたくなくて、走って海琉から逃げた。



海琉は追ってこない。



当たり前だ…。



あたしが海琉を怒らせたんだもん…。



海琉が悪いことなんて一つもないのに。



考え出すと申し訳なさがこみあげてきて胸の中を支配した。



戻って謝らなきゃ…。



今度はちゃんと、ひねくれずにまっすぐ『ごめん』って言わなきゃ。



心の中でかたく決意して、来た道を戻った。



グラウンドの中心では最後のカラーのダンスになっていた。



さっきの場所に戻ろうとしたら海琉に寄るるみちゃんが見えた。



スマホ片手に海琉に声をかけてる。



「海琉くん、写真撮らない?」



二人ともあたしには気づいてないみたいだ。



写真…。
< 99 / 350 >

この作品をシェア

pagetop