眠り王子が完璧に目覚めたら



城はドリンクホルダーからコーヒーを取ろうとした手をすぐに引っ込めた。


「え? 何て? もう一回言って」


翼はその城の大きな声に逆に驚いてポカンとしている。


「え? どこをですか?
運命の人の話?」


城は助手席に座る翼を自分の方へ手荒に向かせた。
そして、翼の目を見て聞き取りやすい大きな声でこう言った。


「その占いの人って…
もしかしたら、新宿の裏通りの母って名前じゃなかった?」


翼はプッと笑った。


「そうです!
裏通りって言葉に惹かれて入ったのをしっかり覚えてるから。


……だから、さっき室長が和成の家で私を守ってくれた時、満月の夜には出会ってはないけど、もしかしたら運命の人って室長なのかな…なんて思ったんです。

いや、室長だったらいいな…って」


城は頭のてっぺんからつま先まで電気か何かが走ったようなそんな感覚に襲われた。
そして、ハッと我に返った時、キョトンとしている翼を力強く抱きしめた。


「翼が覚えてないだけで、俺達は出会ってたんだ…

実は、俺も、あのおばさんに同じ事を言われた。
近い満月の夜に、俺は運命の女性と出会うって。
そして、その時初めて俺の中で眠っていた全ての感情が目を覚ますって」


そして、城はもう一度力を込めて翼を抱きしめる。


「その日の晩、俺は酔っ払っている翼を見つけた。
公園のベンチに座っている翼に、釘付けになった。
まるでギャグ漫画みたいに、脳天からつま先にかけて雷が落ちた感じだった」


翼は体を起こし驚いた顔でこう聞いた。


「満月は?
出てたんですか…?」


城は何とも言えない優しい笑みを浮かべて頷いた。




「最高にバカでかい満月の夜だった…」








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