糖度高めな秘密の密会はいかが?
ハンガーにかけたスーツのジャケットをしまいながら思う。

有澄を連れて行ったら、「結婚は?」と確実に聞くだろうな。

御曹司だと分かったら、お母さんは興奮し過ぎてひっくり返るかもしれないし、ひっくり返らなくても即「イケメンの御曹司」にぞっこんかも?

お父さんは緊張して、あんまり話さず厳格な父を気取っているか、お酒を飲んで陽気になるかどちらかだろう。

お兄ちゃんに関しては、いつものあのままだろう。

だいたい想像出来ちゃうから、困る。

「御挨拶行くなら車で行く?…というか、副社長だから車買ってからにしようか?」

お風呂から上がった有澄が、タオルで髪の毛を拭きながら質問した。

「…いや、別に電車でいいよ。有澄と電車デートもしたいし。でも、どうしたの、急に?」

突然の質問で驚いたが、冷静に答える。

「役職ついてるのにレンタカーじゃ格好つかないし、じゃあ役職は内緒って事で」

「……うん、有澄が内緒がいいならそれでいいよ。まぁ、いずれ役職は分かる事だろうけどね」

どうしたんだろう、有澄?

いつになく焦ってるというか、何と言うか・・・とにかく変。

「大切にしてる娘さんを預かる訳だから、頼りがいがないと不安かなって思って。副社長って地位なのに高級車もなく、1LDKのアパートはまずいかなって思ったんだけど…」

「あははっ、うちの両親、そんなの気にしないよ!細かく言う必要もないんだから、もっと気楽に来てね」

私よりも有澄の方が、今から緊張してるんだ。

有澄はお小遣いや生活費も両親の援助を受けずに今まで生きてきたから、御曹司なのに苦労人なので、豪遊もしない。

高級ディナーももしかしたら、好きではなく、平凡な毎日が好きなのかもしれない。
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