・キミ以外欲しくない

「即座に反対されるかと思ったけど。紹介した君の印象が良かったのかな、案外アッサリ引き下がって何も言われなかった。暫く一緒に暮らすことだし、また顔を合わせることもあるだろうから、誤解されていた方が都合がいい」

「よくないですよ、婚約者のふりなんてできません」

「取り敢えず親父の前だけでいい。責任は俺が持つ」

「そんなぁ」


どうしよう、えらいことになってしまった。


その後のデザートなどは、全く味も分からないまま食事を終え。
副社長と共に部屋へ戻った。

最初に説明された通り、副社長は部屋に戻るなり自分のペースで動いている。
シャワーを浴び、ルームウェア姿でリビングへ戻って来ると「君も」とひとこと告げ、テレビのリモコンに手を伸ばしテレビを点けた。

ローテーブルの上にノートパソコンを広げ、ソファとテーブルの間に座った副社長は、黙々とテレビとパソコン画面に視線を動かしていた。


「お風呂いただきます」


バスルームへ逃げ込んだ私は、胸に手を当て心臓の音を再確認してしまう。
激しい鼓動を感じるのは、スーツ姿からガラリと印象が変わった副社長の姿を見たからだ。

軽くセットされていた髪が、無造作にあちこちに向いた濡れ髪で。
ビシッと着こなされていたスーツから、完全無防備なルームウェアに変わっている。
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