・キミ以外欲しくない

西本雪乃(にしもとゆきの)二十九歳。
国領グループ設計・建設部門所属。
ごく普通の家庭に育ち、頭の出来も普通だった為、ごく普通の社会人に仕上がった。
良いことでも悪いことでも目立たず、代わり映えのない毎日を送っている。


「雪乃おめでとう」

「ありがと」


先程上司が口にした「西本」とは、私ではない。
デスクに戻った私の隣りに座っているこの子が、上司が言っていた「西本」。
正確には「この子も、西本」というべきかな。


西本佳乃(にしもとよしの)二十九歳。
私と同じ名字で、名前が一字違いの同期だ。

間違われることもしばしばなのは、入社当時からのことだから慣れている。

でも、佳乃は「仕事の出来る西本」で、私は「出来ない方の西本」なのだ。
この違いだけは、同じ部署内に居ても不思議と誰も間違えない。


話を戻すと、実は提案書が通ったのも「西本佳乃」の方であり。
単に上司が間違えて私を呼んだのだろうと思った位なのだ。


「今回は私が手掛けたかったなぁ。お茶出しや下働きしに行くだけじゃつまんないよ」

「ちょっと、それって私が何時もしていた仕事をバカにしてる?」

「そういう意味じゃないけどさ」
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