飛蝗者
序章
男としては愛していた。
世界中のどの男よりも最も愛するに値するように思えた。
一方で、人間としては嫌悪していた。

芸術家ってそういうものでしょうと母はよく言う。実母に笑い飛ばされて以来、自分は絶対にそんな男とはひとつにならないと心に決めていた。



実際、私は21になってから人生で初めての彼氏ができたが、彼は研究室にこもりがちで生活感や人間味の少ない理系男性であった。
お天気屋ではなく、感情に一々訴えかけもせず、金のかかる趣味もなく、必要以上に他者や物に執着をしない。

まさに理想の男だった。
父とは正反対の男だった。
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