君があの子に、好きと言えるその日まで。完
「好きになったりとか、したことないんですか……?」


感情に任せて、聞いてしまった。バカ、どうして。

でも、なんだかどうしようもなくもどかしくなって、気持ちがあるのかどうかはっきりさせたくなったんだ。

先輩の口から聞けたら、いちいち傷つくことなく、割り切って応援できる気がしたんだ。

それはとても自分本位な考えだと、自分でも呆れるけど、もうどうしようもなかった。


先輩は、私の質問に、絵を見たまま固まっていた。

しかし、ゆっくり首を横に振って、いつもみたいに優しく笑った。


「ないない、弟みたいなもんだよ」

「……はは、弟ですか」

「それに、妹が好きだった人だし……」

そう言いかけた途端、廊下からなにか興奮しきった様子の女子の声が聞こえた。

あまりにも大きな声だったため、私も先輩も、そっちに気を取られて声がする方向を見つめた。


「星岡先輩に今日も会えるー! 急いで向かおっ、本当サッカー部のマネになってよかったーっ」

「はやく告っちゃいなよー、誰かに盗られちゃうよ?」

「えー、でも三年に好きな先輩いるんでしょう?」

「いいじゃん、そんなの気にせず言っちゃいなよー」


あまりにもタイムリーな会話に、私は思わず気まずさで固まってしまった。

今、来栖先輩の顔を見ることができない。

パタパタと廊下を走ってその女の子達は去っていった様子だったけれど、美術室は静まり返っていた。

とにかく話題を逸らして、何か話そうと、口を開いたその時、先輩がぽつりと呟いた。


「好きな人に好きっていうのって、すごいよねぇ……」

「来栖先輩……?」

「うちの妹も、あんな感じだったな。翔太のことが好きで仕方なくて、ついに告白するって決めてた日に、あの子……」


そこまで言いかけて、先輩が言葉を止めたので、私は先輩の顔を見上げた。

来栖先輩は、泣いていた。音もたてずに、静かに。

私は、その涙を見て頭の中が真っ白になったけれど、今何も話してはいけないことだけは理解できた。


「翔太はずっと雛の気持ちに気づいていたのに、見ないふりをしていた。告白されないように逃げていた……」

雨のようにぽつぽつと落とされていく言葉たちが、胸の中に一粒も残さず流れ込んでくる。

それはとても重くて、痛くて、苦しくて、でも止められるようなものじゃなかった。
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