木村先生と和也君
廊下を進んださきの和室に通され,和也君と並んで座らされた。

「お父さんを呼んでくるから,和也ちょっと待っててね」

そう言ってお母様は部屋を出ていった。

「和也君,ご両親に彼女が塾の先生ってことは言ってなかったんだね」

「はい,サプライズっす」

そんなサプライズいらない・・・

「というか,まぁ本当は気恥ずかしかったんで,手短に彼女としか言わなかったです」

和也君は心なしか少し嬉しそうにしている。

そうですか・・・お陰で私は修羅場だよ。

しばらくして,お母様がお父様を連れて和室に入ってきた。

お父様は,お母様から彼女が塾の先生ということは聞いていたのだろうが,それでもやはり驚いているようだった。

「あ,木村先生,でしたっけ」

お父様が名前を覚えてくださっていた。

私は全力で土下座スタイルをとる。

「はい!この度は突然申し訳ありません!!!」

一同驚いているようだった。

私はそのまま続けた。

「一年ほど前,和也君から交際を申し込まれ,そのときはまだ中学生でしたし,受験もあるのでお断りいたしました。先日,和也君も無事高校に入学したとのことで,再度交際を申し込まれたのでお受けいたしました」

とりあえず,ここまでの経緯を説明した。

少しでも自分の罪を軽くするため,和也君から告白してきたことを強調するあたり,自分の人間の小ささが伺える。

「ただ,和也君はまだ未成年です。私としましても,節度のあるお付き合いを心がけるつもりです。年が離れているので,お二人にはご心配をおかけすることになると思いますが,二人の交際を認めていただけませんでしょうか」

できるだけ,大人の対応で私が今日言うべきことを言い切った。

昨日の晩から何回もシミュレーションしてきた台詞だった。
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