全ての記憶を《写真》に込めて

「お父さん、お母さん、行ってきます!」
学校が始まった。
「彩月〜!うぅ…、愛娘が…」
「紘ちゃん、みっともない姿を見せないで」
「でも……」

お父さんは未だに晴くんを見ると、悔しそうに泣き真似をする。
「彩月は愛されてるんだねぇ」
「お父さんは心配性だから」
本当に、お兄ちゃんはお父さんに似たと思う。


「晴くん、前は本当に助けてくれてありがとう」


何度も言っている。
何度言っても足りないくらい。

晴くんの過去を聞いた。
両親のことを憎んではいないみたいだけど、やっぱり普通の家庭で生まれたかったと病院で聞いた。

「そんなに言わなくてもいいんだけどぉ」

そう言いながらも少し微笑む。
人形だと言われた晴くんは今は普通に暮らしていると思う。
だから、今度は…。

「晴くん!大好きです!」

面と向かって伝えるのは恥ずかしい。

だけど、両親から与えられなかった愛情を。

「〜っ、急に言わないでよねぇ!………俺もだけどぉ」

そう言って、右手を差し出してくれる。
前もあった。
ちゃんと私も学んだんだ。

こういう時は………、

「ん、あんたの手あったかいじゃん」
差し出された手はしっかりと握る。
「えへへ、晴くんの手おっきいね」
「そりゃ男だからねぇ」
そう言いながら、二人で歩く。

こんな幸せが、毎日続いてほしいな。
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