愛されたいのはお互い様で…。


「ここは…、お一人で?」

涼しい室内で温かい紅茶を頂いて、何だかほっとしていた。アップルパイはさくっとしたパイと、シナモンが香るしっとりしゃりしゃりした林檎の触感がとても良かった。

「はい」

「ずっとですか?」

「はい。代々というのでは無く、私が始めた店ですから、まだそう長くはして無いんです」

確かに解り辛い場所にはあるけど、これだけの広さ、個性的なお店…、もっと噂になって知られていても良さそうなものだけど。特別なお客様しか受け付けていないのかも知れない。それも、ここを利用している事を内緒にってくらいにして。…商売としては成り立っているのかしら。もの凄く料金が高いとか?…。

「あの、並べてある靴、見てもいいですか?」

「はい、どうぞ」

紅茶も飲み終わっていた。


「凄く好きなデザインの物ばかりで…」

見ている先から他の物にも目が移ってしまってる。

「そうですか。どうぞ?好きな物を手に取って、足を入れてみてくださって大丈夫ですよ」

「はい。有難うございます」

この綺麗なフォルムのシンプルなパンプスもいい。あまり尖ってなくて。こういうのは、色違いで何足も揃えたくなる。こっちの手の込んだカッティングのパンプスもいいな。…可愛い。クス…購入する訳じゃないのに、試す為の物でさえ、どれからにしようか迷ってしまってる。

棚の下に入れ込まれていたスツールを引き出して勧めてくれた。
ストッキングの素材で出来たスニーカーソックスタイプの靴下も渡された。より履き具合が解るかと、と言葉を添えられた。

腰を下ろし、ソックスを履き、パンプスに足を入れて立ち上がってみた。ゴムマットの上だ。少しその場で足を上げ下げしてみた。

「あ、このパンプスいいです…楽です。綺麗なのに、自然に包み込んでくれてるみたいで。動きについて来てしなやかですね」

…あ、でも、いきなり取って履いたのに、サイズも合ってるなんて…不思議。たまたま置いてある物が同じサイズだったのかも知れない。

「そう言って頂ける事が一番嬉しいです。靴は生きているんですよ…持ち主によって生かされているんです」

…ん?何か言ったみたいだけど…。靴に夢中で聞き逃してしまった。

「これはここで製作された物ですか?」

「はい、全て私が作った物です。だからさっきのような言葉はとても嬉しいですね」

…へえ、…凄い。…当たり前だけど、改めて職人さんなんだなと思ってしまう。

「人によって足の形もサイズも、左右でも違いますからね。採寸して型取りからします」

「こんなデザインで、素材はこれで、こんな風にして欲しいって…、つまり、オーダーメイド出来るって事ですよね」

「はい、それが仕事です」

穏やかに話す人だ。この仕事が好きなんだ。自分の足に合っている物、一度履いたら、他の物は本当に履けなくなりそうだ。楽で尚且つ素敵な物って、凄く贅沢な気分になる。

「履かれてるパンプスのサイズを見て、予め…めぼしいデザインの物に柔らかめの中敷きを入れておきました。合わせる為の応急処置ですが」

だから…サイズが大丈夫だったのね。きっと手に取るかも知れないって。足を洗ってる間に先を読んでいたなんて…。
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