愛されたいのはお互い様で…。

「…だとしたら」

…。

「真瀬紫さんとは終わって、それからは無いのですよね?」

「…だとしたら、何だ」

…恐い。…怒らせてしまってる。当たり前だ。原因は私なんだから。やっぱり嘘をついてはいけなかった。全然顔を向けてもくれない。…お前には関係ないだろうって…。

「…私、してはいけない事をしてしまいました。でも、その事は承知の上で、…私、葉月さんの事が仕事とは関係なく、好きです。…好きなんです、変わりません、ずっとです」

「…もうその話は止めないか…ないと言っている、迷惑だ。…ふぅ…言いたくもないが、もっと恨み言を言ってやろうか?…」

恐い…、でも、平気…。言われても仕方ない事をしたんだから。

「夏希が俺の部屋の鍵を勝手に作って勝手に出入りして…、部屋に居たのに居なかったと嘘までついた事で、俺は終わりにされたんだ。…俺が紫に言った話し方は棚に上げてだけどな。
勝手に携帯も見てたよな?それもかなり前から」

「…はい。…すみませんでした」

「…教えてくれないか」

「…え?」

「ふぅ…。許可もなく勝手な事をして、嘘をついて…、そんな事を…まるでなかった事みたいにして、まだ好きだと言えるのはどうしてだ…。その精神状態、俺には理解できない。異常だ。身勝手だと思わないか?自分の存在を匂わせて、壊れればいいと思ったのか、まず、それからだって。仕事同様、戦略か。
好きって思う気持ちは勝手だが…。何故まだ俺に好きだと言える…。無神経にも程があるだろ。
俺は、紫に、言い方が悪くて傷つけた事がずっと残って…、自分でそれが許せなくて…、好きなのに、その先が言えないでいる。一緒に居たいのは、あいつじゃなきゃ駄目なのに…だから余計言えない…。
なあ…、どうしたら夏希みたいに、無神経に言えるんだ?教えてくれよ」

ズキ…。

「夏希は本当に俺の事が好きなのか?何か勘違いしてるんじゃないのか?
仕事以外の、俺の何を知ってる?知らないだろ…。他の奴は知らないが、仕事の時なんて、俺は別人格だ。…余程、見る目がないんだな…」

…。

「何だ、答えられないのか…。自分が好きだと思った男は、偽りの男だったのかって、…がっかりしたか…。収入に惚れたか、いつか聞いてきたよな?」

これは私を突き放す為の言い方をしてるだけ、偽りの男なんて…嘘だ。

「…何も考えていないと同じです。反省も後悔も…別です。無神経だと思われても、好きな事は消せません。諦めたくありません、好きだから好きなんです。卑怯な事をしてもです。手に入れたい…。
…嫌われても、好きだと言い続けていなければ、もう好きじゃなくなったのかと思われてしまいます。
…嫌われてる気持ちは、言われなくても察知してしまいます。曖昧でも、負の雰囲気は漂うのが解りますから。
好きっていうのは、はっきり伝えないと解って貰えません。曖昧では、それが好きだとは解って貰えません。無神経でも図々しくても、恥知らずでも、ずっと好きなんです。好きなんです」

「ふぅ………そうか、……勉強になったよ。
悪いが、俺は紫とじゃなきゃ、変わらず誰ともつき合わないから。
夏希も俺に対する好きという気持ちは早く消した方がいい。…時間を無駄にするな。どんなにこの先夏希が変わろうと、俺が夏希を好きになる事は今後一切ない。一生ない。言い切れる。お前に信頼はない。夏希の事は、この先も仕事以外のつき合いはないから。この気持ちが変わる事はない」

「…それでも。…迷惑でも、私は好きですから。仕事以外で、信用して貰えるように努力します…証明する事はできませんが。……好きじゃなくなった時ははっきり言います」

…。

「それは、言って貰わなくても結構…それすら、一々言われるのも迷惑だ、関わって来ないでくれ。悪いが先に出る。
仕事は仕事だ。直接関わる事はもうないがな。
まあ、また、来週から、よろしくって事だ」

「……はい、…よろしくお願いします…」

メッタ斬りにされた…。当たり前だ、嘘はいけない事。私が仲を壊した。そんなのは解ってる。また更に嫌われた…。同じ会社に居るから仕方ないけど、もう顔も見たくないと言われているんだ。
嘘は基本ついてはいけない。でも、好きな人の嘘は許すでしょ?
私の嘘が許せないのは、何でもないくらいの存在だったのに、今は私の事が嫌いだからですよね…。人としての信用なんてもうない。そんな女の嘘だから。もうずっと負のスパイラルだ。それでも諦められない。

先に出た葉月さんは支払いを済ませてくれていた。…こういうところも変わらない。
私は…焦るばかりで、取り返しのつかない事をした…。どうしても欲しかったから。
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