愛されたいのはお互い様で…。


ノートと筆記用具を手に戻った男は早速何も書かれていないページを広げた。

「はい、…えっと。シンプルな感じ?それとも、少し可愛さも入れる?
色は?…んー、構わなければ、凄く濃いワインレッドはどうですか?
ストラップは一本がいい?細く二本も可愛いですよ?お洒落にならTストラップもいいけど、機能性重視ならしっかりした横だけがいいかな……ん?どうしました?」

ノートを手に書き込みながら、色々と聞いてくる様子は、とても弾んでいるように見えた。

「え?あ…、さっきのお客様の対応で疲れているのではと思ったんですけど。…クス。とても楽しそうに、次から次へアイデアを出してくれるから」

「あー、はい。自分がこうしたいとはっきり言ってくれる人との話は、突き詰めていくのも楽しいですから。
まだまだ序の口、わくわくの入口ですよ?」

「あの…」

「はい」

「実際、注文となると、おいくらくらいになるものなんでしょうか…全く相場が解らなくて。いい物だから、きっとそれなりのお値段になるのでしょうが」

「そうですね…お値段は、…交渉次第、という事にしましょうか」

「交渉?…あの、一見さんの私に、交渉の余地があるのでしょうか…」

「ありますよ?…こうして来てくれる事。それも結果としてサービスさせて頂けるポイントになるかも知れませんね」

「え?」

「つまり、靴は靴として。…お茶を飲んで話をしに来て頂くのもいいって事です」

ん?結局は別物?

「あの…」

「何だか、何かがありそうで、変で怖い?」

「はい。正当な金額で、普通に…お願いします」

「ハハハ。んー、解りました。では、最終的な判断は私の方で勝手にします。それも、よく解らないって感じでしょ?」

「はい。あの、今からだと、どのくらいの期間、待つ事になりますか?少なくとも、さっきの方の次になりますよね?」

「急いでますか?」

「いいえ。オーダーですし、急かしてお願いする物では無いと思いますから普通に待ちます。それに…お一人でされてますよね」

「あの」「…あの」

あ。一緒になってしまった。掌を向けられて、どうぞ、と譲られた。

「あ、はい。えっと、お名前は…、伺っても構いませんか?私、お店の名前も知らなくて。人に行った先を聞かれて、解らないって言ったら、笑われてしまって」
< 14 / 151 >

この作品をシェア

pagetop