愛されたいのはお互い様で…。
ノートと筆記用具を手に戻った男は早速何も書かれていないページを広げた。
「はい、…えっと。シンプルな感じ?それとも、少し可愛さも入れる?
色は?…んー、構わなければ、凄く濃いワインレッドはどうですか?
ストラップは一本がいい?細く二本も可愛いですよ?お洒落にならTストラップもいいけど、機能性重視ならしっかりした横だけがいいかな……ん?どうしました?」
ノートを手に書き込みながら、色々と聞いてくる様子は、とても弾んでいるように見えた。
「え?あ…、さっきのお客様の対応で疲れているのではと思ったんですけど。…クス。とても楽しそうに、次から次へアイデアを出してくれるから」
「あー、はい。自分がこうしたいとはっきり言ってくれる人との話は、突き詰めていくのも楽しいですから。
まだまだ序の口、わくわくの入口ですよ?」
「あの…」
「はい」
「実際、注文となると、おいくらくらいになるものなんでしょうか…全く相場が解らなくて。いい物だから、きっとそれなりのお値段になるのでしょうが」
「そうですね…お値段は、…交渉次第、という事にしましょうか」
「交渉?…あの、一見さんの私に、交渉の余地があるのでしょうか…」
「ありますよ?…こうして来てくれる事。それも結果としてサービスさせて頂けるポイントになるかも知れませんね」
「え?」
「つまり、靴は靴として。…お茶を飲んで話をしに来て頂くのもいいって事です」
ん?結局は別物?
「あの…」
「何だか、何かがありそうで、変で怖い?」
「はい。正当な金額で、普通に…お願いします」
「ハハハ。んー、解りました。では、最終的な判断は私の方で勝手にします。それも、よく解らないって感じでしょ?」
「はい。あの、今からだと、どのくらいの期間、待つ事になりますか?少なくとも、さっきの方の次になりますよね?」
「急いでますか?」
「いいえ。オーダーですし、急かしてお願いする物では無いと思いますから普通に待ちます。それに…お一人でされてますよね」
「あの」「…あの」
あ。一緒になってしまった。掌を向けられて、どうぞ、と譲られた。
「あ、はい。えっと、お名前は…、伺っても構いませんか?私、お店の名前も知らなくて。人に行った先を聞かれて、解らないって言ったら、笑われてしまって」