彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「ありがとう、早希。大切なのは俺達がもう離れないこと。だから不安があれば解消する。何でも話して欲しい」

私を見つめる康史さんの瞳は優しい。
私の心はもう決まっている。

「私が東京に戻るってことは姉たちを置き去りにして自分だけ幸せになるってことじゃないかって。私にはもう康史さんと離れるって選択肢はないのに、それでも姉たちに対する罪悪感みたいなのが私の心を覆っていて純粋に幸せだって思えなくて苦しいんです。でも、康史さんとはもう離れたくない」

私は握ったままの康史さんの手を持ち上げ自分の胸元で抱きしめた。

「実はさっき早希の実家に行っていたんだ」

え?と顔を上げると
「ご両親とお姉さんに早希を東京に連れて行きたいとお願いするつもりだった」
私を真っすぐ見つめて康史さんはそう言った。

「それを言う前に早希を東京に戻してもらえませんかとお姉さんにお願いされた。ご両親にも」

私は驚いて声が出ない。

「ご両親もお姉さんも今の状態は早希を犠牲にしているようで辛いそうだ。でも早希には早希の想いがあるだろう?だから、お姉さんたちと話し合ってごらん。俺は待つから」

「康史さん」

「君と連絡が取れなくなるわけじゃない。将来は早希と一緒に過ごしたい。だから、今は待つ。早希が納得できるように解決してから東京においで。東京での仕事も住まいも心配するな」

「東京での仕事と住まいって?」

「住まいは俺のマンションでいいだろ?狭いというのなら引っ越しをしておく。仕事は…一度退職してしまったからさすがにすぐにアクロスの正社員ってワケにはいかないが、THからの出向ってことでアクロスに戻れるようにタヌキが手を回すらしい」

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