彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~


何とか頼まれた資料を作成し、部長に確認をお願いをして昼休みに入った。

林さんからのメールを見ると、会社の裏通りにある昔ながらの喫茶店を指定されている。
そこに入って驚いた。

ああ、ここは本当に穴場かも。会社の人は見る限り誰もいない。
もう林さんは来ていた。4人掛けのテーブル席で何かの資料を難しい顔をして読んでいる。

「すみません、お待たせしました」
本当に申し訳なく思っているとしおらしい声を出した私に

「あなたという人は。諦めて従ってくださいと言ったのに、まだ決心が付かないんですか」
呆れたように林さんが言った。

「はい、誠に申し訳ありません。極秘だったのに結果的に林さんを私の職場に来ていただくような大事にしてしまって・・・」
シュンとして頭を下げた。

「じゃ、今週の木曜日、就業後空けておいて下さいね」
林さんはキリっと言い放った。

「はい、わかりました・・・ってそれもう明後日じゃないですか!」

ムリムリムリ。
ぶんぶんと手と首を勢い良く横に振る。

「谷口さん、業務命令ですから。仕事ですよ、シゴト。頑張って副社長をよろしくお願いしますね」
林さんは強い視線で私を見つめて逃さない。

喉がごくりと鳴った。

林さんの様子に私は狩られるウサギのようにもう逃げられないのを悟った。
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