彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

「で、情報源は誰なんです?」
話を元に戻した。だって耳に入るのが早すぎでしょ。

「神田部長本人だよ」
林さんはニヤッとした。

本人!まさかの本人!
それなら早いはずだ。

驚いている私を見ながらクスクスと笑っている。

「翌朝に部長以上の連絡会議があってね、会議が終わった後に神田部長が第1営業部長と専務相手に『昨夜実に面白い事があったんだよね』ってその話をしてたから、ちょうど耳に入ったんだよ」

神田部長~!!

どこで何をしゃべってんのよっ!

「で、副社長もそこにいたんですか?」
「そう。で、酔った早希さんのことがすごく心配になったんじゃないかな」

はぁ・・・

「今日はこれしか飲んでないし、酔ってももう置物には声をかけませんよ」
「そりゃ、そうじゃないと困るよ。でも、今夜はしっかり送るからね」
「だから、いいですってば。一人で帰れますよ」
「送らないと副社長の機嫌が悪くなるから。頼むよ、早紀さん」

林さんが本当に困った顔をするから私が折れることになった。

とそんなことがあり、私は林さんと少し親しく話をするようになり、林さんは私と副社長が時々会っていることを知っているという事もわかったのだ。



「おーい、早希。心がどっかに飛んでるぞー」

由衣子の言葉で我に返った。

「ああ、ごめん。旅行の話をしよっか。有給休暇取れる時期で後は場所でしょ。どこがいいかな」

由衣子はタブレットを取り出して検索を始めた。

「でもさ、うちの会社って太っ腹だよね。すごい賞品じゃない。ね、石垣島とかどう?反対に北海道とかでもいいかも」
「あー、どっちも魅力的だわ」

箱根で一泊位だと思っていたのに、旅行券はかなり高額だったのだ。
遠出するのは大学の卒業旅行以来かも。

でも、私の頭の片隅にはずっとさっき見た副社長と出かけて行った薫の上品なワンピース姿がちらついている。

アレは絶対接待ではないと私の頭の何かが黄色信号を出している。

だって、薫は副社長のエスコートで高級黒塗りの社用車の後部座席に乗っていった。
秘書業務なら助手席のはず。エスコートだって不要だ。
< 44 / 136 >

この作品をシェア

pagetop