彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
術後2日目になり母は大分動けるようになっていた。
仕事の都合で今夜一旦東京に戻り、金曜日の明日は一度出社して仕事を終えたらまたこっちに来て土日を過ごす予定。

入院中の母の世話はほとんど問題ないけど、問題は母の退院後、姉が出産で入院している間の真彩の世話だろう。

昼間は保育園に行くとしても送迎しないといけないし、真彩がぐずぐず言っても母はまだリハビリ中で真彩を抱けない。
姉が職場復帰したらどうだろう。母は真彩と下の子の両方の世話が始まる。大丈夫だろうか。父の一時帰国だけじゃ足りない。父はどのくらい日本にいられるのだろう。

やはり私がこっちに戻るのがいいのかもしれない。
ちょうど付き合っている恋人もいない。
でも、仕事を辞めなければいけないのは辛い。あんなに就活を頑張って入社したのだし、やり甲斐もあるし、友達もいる。


「お母さん、私がこっちに戻って来た方がいいかな」
思い切って母に声をかけた。

「早希、仕事はどうするの」
雑誌を読んでいた母が驚いて顔を上げた。

「戻るのなら辞めるしかないね」
「せっかく頑張って入った会社なのに」

「そうなんだけどね。実際、お母さんとお姉ちゃんでこの先やっていけるの?」
母の表情が曇った。

「やれなくてもやるしかないのよ。早希は気にしない。自分の事を最優先で考えてちょうだい。ありがたいけれど、早希の生活を犠牲にはしたくない。お姉ちゃんだって辛いと思う」

母にすっぱりと言われたけど、私はもやもやとしていた。

「さぁ、早希。今日は東京に戻るんでしょ。私は大丈夫だからもう今日は早く帰りなさい。遅くなったら明日の仕事に響いて周りに迷惑を掛けてしまうわよ」

「・・・大丈夫だよ。でも、わかった。そうしようかな」

私は姉に電話して姉の検診の様子を聞いた。
子宮の様子からまだすぐに陣痛は来ないだろうと言われたという。
安心して今日は早めに東京に戻ることにした。今からなら夕方には着ける。

「じゃ、一旦東京に戻るけど、明後日また来るからね」

「はいはい、よろしくね」

母は笑顔で手を振った。元気そうな表情に私も安心して帰宅できる。


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