彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

副社長にとって私は暇つぶしの相手とわかっていても、他に女性がいる事を知るのは辛かった。

薫と抱き合っているのを見たり、女性との電話を聞いてしまったり、ホテルのBarに女性と腕を組み向かう姿。極めつけは副社長室での婚約者とのキスシーン。

これ以上近くにいることはできなかった。
私はもうたくさんいる女性のうちの一人でいることに耐えられなかった。

副社長も暇つぶし相手を探すのならば社内でなく、社外で探してくれればよかったのに。
このまま私が社内にいれば、いずれ副社長の結婚報告も耳に入ることだろう。
きっと耐えられない。

母の入院、父の不在、姉の出産は私が東京を去る良いきっかけになった。

副社長と出会ったあの夜と、副社長に連れられて過ごしたあのホテルの3日間が私にとって宝物の思い出だ。

夜空を見上げては副社長と見た星空を思い出す。

『早希のそんな顔が見たかった』

そう言った副社長の笑顔が忘れられない。

夜は私がいなくならないようにと彼は私と手をつないで眠った。
腕枕では私が副社長の腕を心配してしまい気になって眠れないから。

切なさに胸が痛み涙がこぼれる。
こんなに辛いのなら恋なんてするんじゃなかった。稔と別れたあの夜、一晩だけの思い出にしておけばよかった。
いつになればこの心の痛みが癒えるのだろう。
いつになれば星空を見て涙が流れなくなるのだろう。


副社長は今どんな女性と過ごしているのだろう。
あれから半年がたって私のことはもう忘れただろう。

あの女性といつ結婚するのだろうか。
結婚したら薫はどうするのだろう。

新しい暇つぶし相手は見つかったのだろうか。
副社長の心のどこかに私の存在が、私との思い出は残っているだろうか。
そんなはずがないのに忘れられたくないという自分勝手な思いがある。

全てを捨てて逃げ出したつもりだったのに、心の中までは捨てられない弱い女。

自分から離れたのに、副社長への想いは大きすぎて辛い。

会いたい。
でも、無理。
もう終わったこと。
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