彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「はいはい、由衣子、メールじゃ面倒になった?直接話す方がいいよね」
くすくす笑いながら電話に出た。

「いつから気が付いてたのよ」
「うーん、前からそうかなとは思ってたけど、確信したのはあの創立記念パーティーの時かな。由衣子は副社長の話ばっかりしてたけど、高橋のことをずっと目で追ってたからね」
私は自信をもって言った。

「やれやれ、早希にはかなわないね」
「へへっ。で?進展はないの?」

「アイツすごく忙しいみたいでさ、一緒に飲んだのも一か月ぶりかな。何だか新しいプロジェクトがどうのって。信楽焼部長も絡んでるみたいだよ」

「そうなんだ。神田部長が本腰入れてるなら相当大きなプロジェクトだね。じゃ高橋もしばらくこれにかかりきりなのか」

「ま、今は私も忙しいからいいんだけど」

「落ち着いたら2人でゆっくり過ごしてみたら?」

「ゆっくりって何よ」

「いつもの居酒屋じゃなくてホテルのレストランで食事とかもう少し色気のある所でさ。ちょっと押してみたら?」
由衣子には私の分まで幸せをつかんで欲しい。

「今さら色気とか難しいわ」
はーっと由衣子は息を吐いた。

「そんなことないと思うよ。でも、こういうのってタイミングとかも大事だよね。ま、考えてみなよ。私に言われたくないかもしれないけど」
重い空気にならないようにハハッと笑った。

「・・・ずっと早希に言おうか迷ってたんだけど。・・・副社長ね、全く休みをとらずに仕事してるって高橋が言ってた。今やってる高橋のプロジェクトの責任者が副社長みたい。接待とかも一切行かずに毎日社内で残業してるらしいよ」

「・・・そう」

そんな話をされてもどう返事をしたらいいのかわからない。
日ごろあんなに働いていたのに、更に働いているのか。
いや、もう私が心配する事じゃない。副社長の婚約者が心配すればいいのだから。

「由衣子、いろいろ気を遣わせちゃってゴメン。副社長の事だって、何があったのか由衣子にほとんど言ってないし」
電話の向こう側の由衣子に頭を下げた。

「言いにくい事だってあるって。私だって高橋の事言えなかったしね。お互いさま。それよりさ、例の旅行券、まだ有効?早希のご実家の方が落ち着いたら行こうよ!一緒に行く約束だったじゃない」

「うん、そうだ、旅行に行ってない。期限は特に無かったはず。箱根で待ち合わせとかにしちゃう?それとも京都とか?」

お互い長い休みは取れそうもない。ならば週末旅行ならどうだろう。近々の再会を約束して電話を切った。
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