クールな外科医のイジワルな溺愛
このマンションに転がり込んでから初めて足を踏み入れる、黎さんの寝室。大きなベッドとシンプルな家具が配置されたそこは、すっきりと片付いていてやたら広く見える。
照明を最小限に絞った部屋のベッドに沈められ、じっと見つめられた。
いつもの優しい紳士の黎さんとは違う。目の前にいるのは理性をなくした野獣だ。だけど、決して嫌じゃない。
「お母さんのことを大事に思う花穂が好きだ。でも、たまには俺のことも見てくれ」
そう言われて、突然目が覚めたような思いがした。
私、自分や母のことでいっぱいいっぱいで、黎さんがどんな思いを抱いているか、考えようとしていなかったかも。
いつも優しく包みこんでくれる黎さんに甘えきっていて、自分から黎さんに何かしてあげようとしなかった。
「ごめんなさい」
家事だけ分担していればいいと思っていた。それじゃ、お父さんと住んでいたときと一緒じゃない。
情けなくて一気に気分が落ち込んだ。こんなに好きなのに、全然相手を思いやれない自分が嫌いだ。母もきっと、自分のことだけじゃなく、黎さんのことも考えなきゃダメだと言ってくれていたんだ。
「謝らなくていい。別に責めてるわけじゃない」
黎さんは柔らかい微笑みを見せると、大きな手で私の頭をなでる。
「今までは仕方なかった。でも、これからは……いいよな?」
彼が何を望んでいるのかは、もうわかっている。恥ずかしかったけど、なんとかうなずいた。
こうして私たちは、やっと、初めて、身も心も結ばれた。
黎さんの鼓動を肌で感じながら、私は必死で祈った。
今夜だけは、ううん、これからも黎さんのスマホが鳴りませんように。ずっとずっと、仲良しでいられますように、と。
【happy end】


