気持ちの伝え方

始まりの出会い。

ーー春の朝ーー 守屋

人が混雑する駅のホーム、ベルが鳴り溜め込んだ空気を吐き出すような音をたてながら閉まる電車の扉の間に
俺ーー守屋 優希は飛び込んだ。

「ま、間に合った…。」
電車に乗れたことに一安心しつつ、まだ弾んだ息を整えるため、近くにあった空いている席に腰掛けた。
この春、俺は地獄ともいえる採用試験を突破し夢だった教師になることが出来た。
今日は赴任する学校への登校日…、いや、出勤日だ。未だ、大学生気分が抜けないのは悪い癖だ、早く直さないとな…。

息も落ち着いた頃、目的地の駅に到着した。
さて!今日も一日頑張るか!と気合を入れて立ち上がった時、一人の女の子が前を通った。
俺の学校の制服?ってことは俺の学校の生徒か。あー、なんかこうゆうの見るとこの子に教えたりするのかー、とかなんか親近感覚えちゃうなー。
俺は前を通った子を少し目で追った。
化粧も特にしておらず、長い髪を下ろしていた彼女はさしずめ落ち着きのある学級委員長タイプ…って何考えてんだ俺!?早く降りないと…って、ん?
足元を見るとそこには可愛らしいハンカチが落ちていた。
俺の前を通ったのは、あの子だけだからきっとあの子のだろう。そう思い俺は落ちていたハンカチを手に取り、彼女を追った。


駅を出てすぐに彼女を見つけた。まぁ行く学校が一緒なんだから方向一緒だしな。
「あの!すいません!」
と呼び掛けたが彼女はこちらを見もしなかった。遠かったかな?もうちょっと近くまで行ってみるか…
俺は小走りで彼女の真後ろまで行き、また声を掛けた。
「ねぇ!制服の女の子!ハンカチ落としたよ!」
が、しかしそれでも彼女は尚、こちらを見ず歩き続けていた。
いやいや!流石にもうおかしいだろ!?制服とか、ハンカチとか言ってるのに振り向きもしないとか!なんなんだよ!
少し怒りを覚えた俺は、彼女のもとへ再び駆け寄り腕を掴み、「あの!ハンカチ!」と怒鳴ろうとしたが、腕を掴んだ瞬間、彼女は体をビクつかせもの凄い表情でこちらを振り向いた。

な、なんであんな声掛けたのにそんなビックリしてんだ?
も、もう訳わかんねぇ、早くハンカチを渡してしまおう。そう思い俺はハンカチを差し出す。
「あの、ハンカチ落としましたよ?」
彼女はハンカチを見てからポケットを探りハンカチがないことに気づいた彼女はハンカチを受け取ると、ペコっと頭を下げ、去って行った…。

え、いやそれだけ?愛想悪!?
せめてありがとうございますとか、なんかあるだろ!?

「はぁ、…なんか疲れた」

疲労感を一気に感じたが、帰るわけにもいかない。俺は重くなった足を引きずりながら学校へ向かった。
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