お見合い相手は、アノ声を知る人
「多分、その時は今よりももっと明里の側に居たいと思ってるから。その唇にキスをして、全部を自分のものにしたいと思ってるよ」


今だって…と囁くと、軽く頬にキスをする。
流れた涙を指で拭い、「綺麗だ」と溜息混じりに囁いた。


「…あ、貴方って、もしかしてお人好し?」


涙に暮れながらそう聞き返すと、そうかもな…と少し笑う。

ときめいてはいけないと思いつつも、やっぱりその顔はステキだった。
胸がキュンとして、うっとりと彼を見つめた。



「……やっぱり可愛い」


そう言うとぎゅっと抱きしめられた。
言葉だけではない行動に胸が跳ね、それから彼の服をぎゅっと握った。


先祖の眠る場所で抱き合う私達を、墓所の御霊はどんな風に見てただろうか。


彼と手を取り合って苔生した古寺を後にしながら、もしもまたこの次此処に来ることがあったら、その時は二人で笑い合いたい…と願ってしまったーーー。


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